これまでは当たり前のように多くの企業が副業や兼業を禁止していました。
しかし、働き方改革の推進に伴い、それらを解禁する企業も増えてきました。
副業・兼業の解禁は労働者にとって収入面だけでなく、スキルを向上させるためにも有意義なものです。
この記事では副業・兼業の違い、これらの解禁が推進される背景や容認によるメリットなどを、厚生労働省のガイドラインについても触れながらご紹介していきますので、これからの参考にしてみてください。
副業・兼業の違いはない
副業、兼業と言葉が分かれていると、どこかに明確な違いがあるようにも思えますが、法律上、これらを区分する定義はありません。
中小企業庁による公的な書面においても、“兼業・副業とは、一般的に、収入を得るために携わる本業以外の仕事を指す”と記述されているのみです。
しかし、一般的には副業・兼業はやや異なるニュアンスを指す言葉として取り扱われています。
いずれの言葉も本業以外に仕事をすることを意味していますが、副業は本業に従事していない時間を有効活用して行うものであり、本業に比べて得られる収入や従事する時間などが小さいのが特徴です。
スキルアップや人脈づくりなど本業に活かせる要素を得ることを目的として取り組む、本業以外の仕事のことを副業と表現する場合もあります。
一方、兼業は本業以外の仕事を掛け持ちしている状態を指し、副業に比べて事業性が高いのが特徴です。
本業とそれ以外の仕事のどちらも本業と言えるような場合を兼業という言葉で表現することが多く、より大きな収入を得るため、事業そのものの成長のため、といった目的のもとに展開されているものを指します。
副業・兼業が推進されている背景
これまで多くの企業において副業や兼業が禁止されてきたのは、業務に何かしらの支障が出る可能性、社内の秩序の乱れ、企業秘密や顧客情報などの情報漏えいなどが懸念されていたためです。
副業や兼業によるこれらのリスクが潜んでいるのは現在も変わらないものの、今日のように副業・兼業を多くの企業が容認されるようになった理由は、政府が働き方改革を提唱する中で、副業や兼業を推進している背景があるためです。
平成30年に厚生労働省がモデル就業規則を改定した際には、”労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる”と記載され、大きく注目されました。
労働者それぞれの意識も変化してきたため、時代にフィットし、労働者との利害関係を調整しようとする企業の姿勢も副業・兼業推進の背景にあります。
終身雇用が崩壊し、ひとつの企業でキャリアを全うするのが当たり前でなくなった状況下、もっと稼げる自分へ、自力で稼げる人間へ、ステップアップを図ろうとする人々が増えており、これまでの副業や兼業を禁止する就労環境が時代に沿ったものではなくなったためです。
厚生労働省が副業・兼業促進ガイドラインのポイント
政府は働き方改革の一環として副業や兼業の推進を図ってきましたが、会社の労務管理が難しくなってしまうことから、副業や兼業の解禁に慎重な企業は少なくありませんでした。
そこで、より多くの企業が解禁へと踏み切れるよう、副業・兼業を認める際のルールを明確化しようとして設けられたのが「副業・兼業の促進に関するガイドライン」です。
同ガイドラインでは、本業に従事すべきとされている勤務時間以外の過ごし方は個々の自由であり、合理的な理由がない限り、従業員の副業や兼業を会社側が禁止できないものとされています。
ここで指す合理的な理由とは、就労時に支障が生じる場合、業務上の秘密が漏えいする可能性のある場合、自社の事業と競合することで自社の利益が害される場合が当てはまります。
これらの記述が盛り込まれているのは、会社と従業員の間には雇用契約が存在しており、会社が雇用契約上の不利益を被ることのないよう配慮されているためです。
労働時間の通算についてもルールが明確化されたのは、会社にとって副業・兼業に前向きになるための大きな要素に他なりません。
“労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する”との規定が労働基準法において定められており、この規定には事業場だけでなく事業主を異にする場合も含むとされていたため、事業主は副業・兼業している従業員からの申告内容をもとに自社での労働時間の管理を行わなくてはなりませんでした。
実務上、これはかなり困難ですが、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、本業と副業・兼業、それぞれ事前に設定した労働時間の範囲内で労働させるためのルールが設けられており、労働基準法の規定もクリアできるようになっています。
労災保険給付においても、複数の事業場における賃金額を合算して労災保険給付を算定できるようになったほか、それぞれの事業所内における労働時間やストレスなどを総合的に評価して労災認定を行うなど、より実務に沿った行政上の手続きを行うことができるようになっています。
より詳しい事項について知りたい場合には、厚生労働省特設のホームページやガイドラインなどを是非確認してみてください。
副業・兼業を容認するメリット
副業や兼業の容認におけるメリットは従業員側だけでなく、企業側にもあります。
まず挙げられるのは、従業員が社内では得られない知識・スキルを獲得することが期待できる点です。
社内でルーティンをこなすばかりであれば、社内で決まった教育研修のプロセスを経ているだけでは、経験できないことも多々あります。
副業や兼業を企業側にとって負担のないOJTと捉えた場合、それらを容認することによってより自社への貢献を期待できる人材の育成へとつながると考えられます。
副業や兼業は従業員それぞれが自らのモチベーションを喚起し、それを維持しながら取り組んでいかなければ上手くいかないことから、従業員それぞれの自律性・自主性を促すことも期待できます。
社内にいるだけではどうしても自律性・自主性を養わせることは難しいものですが、自力でどうにかしなくてはならない副業や兼業においては何事にも自力で立ち向かわなくてはならず、自ずと自律性・自主性が養われていく良い機会となるでしょう。
また、優秀な人材の獲得につながり、そういった人材の流出の防止ができることで企業競争力が向上するのもメリットといえます。
副業や兼業の容認に追い風が吹いているものの、まだ容認していない企業も少なくありません。
優秀な従業員の中には副業や兼業に積極的な人材も存在しているはずであり、該当する人材が副業や兼業の容認を求めているだろうことはイメージに容易いところです。
副業や兼業を容認しないままであれば、優秀な従業員はそれらを容認している企業への移動を希望するようになる可能性もあり、人材の確保に大きな影響が出てくるといえます。
そして、従業員が社外から新たな知識・情報や人脈を入れることで、事業機会の拡大につながるのもメリットとなります。
社内にこれまで存在したリソース以外のものを個々の従業員が持ち寄ることで組織としての競争力を高められるほか、従業員同士でもお互いに刺激を得られることから相乗効果も期待できます。
副業や兼業を通じて得られたリソースはすべて活きたものであるため、自社のビジネスに直接的な効果を期待できるなど、副業や兼業の容認は自社のビジネスの成長に役立てられます。
まとめ
今後、副業や兼業を容認する企業はより多くなってくると予想されます。
容認する企業が多くなればなるほど、それまで容認していなかった企業もそれらを容認せざるを得なくなってくるでしょう。
働き方改革や、将来への不透明感から副業や兼業に積極的になる従業員が増加すれば、そこで生まれる副業・兼業容認へのニーズに企業側も応えなくてはなりません。
かつては労務管理上の問題や情報漏えいなど副業や兼業の負の部分にばかり目を向けられていましたが、従業員のスキル習得の良い機会となったり、OJTでは体験できないことを経験できたり、それらを持ち寄ることで企業成長につながったりなどのポジティブな面に目を向ければ、きっと容認に前向きになれるのではないでしょうか。