ジョブ型人事制度導入への転換。導入のコツと注意点

新型コロナウイルスの流行に伴い、テレワークや在宅勤務といった新しい働き方が浸透した今日、雇用のあり方にも変化が生じており、ひとつの会社でキャリアを重ねていく日本的な雇用スタイルであるメンバーシップ型雇用から、特定の職務を遂行できる人材を雇用する欧米型の雇用スタイルとされるジョブ型雇用への転換期を迎えようとしています。
この記事ではジョブ型雇用の導入のコツや注意点をご紹介しますので、これからの参考にしてみてください。

ジョブ型雇用が広がる背景

ジョブ型雇用が広がっている背景には、新型コロナウイルスの流行によって働き方についての見方が大きく変わったことがあります。
外出できない以上、テレワークや在宅勤務を強いられるしかありませんでしたが、そのような状況においても人々はビジネスを回してきました。
この結果、オフィスが不要なのではないか、という意見を見聞きする機会が多くなりましたが、これは同時に社員の教育研修の場が失われることも意味しています。
これまでのメンバーシップ雇用ではオフィスをはじめとする就業場所でのOJTが重要でしたが、それらの機会も十分に設けづらくなりました。
しかし、ビジネスを支える人材は必須です。
そこで、顕在的なスキルを評価するジョブ型雇用が広まるようになりました。

ジョブ型雇用による職務型人事制度への転換

ジョブ型雇用の広まりによって、従来からの日本的雇用を見直すようになった企業もあります。
例えば、日立グループは全世界30万人をジョブ型の人事制度へ転換するとして話題になりました。
長らく日本型雇用の象徴とされてきた終身雇用や年功序列はすでに過去のものと思いきや、それらは根強く残っており、いまだ多くの企業が職能型人事制度のまま今日に至っています。
これまでに職能型人事制度の見直しが声高に叫ばれたのは2度ありました。
最初は景気後退を受けて成果主義というワードが浸透した2000年前後であり、2度目が企業経営のグローバル化に合わせて人事制度も欧米のスタンダードに合わせようとされた2010~2015年にかけての期間です。
そして、2020年が3度目であるとされています。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴いジョブ型雇用が広まったのをきっかけに、職能型人事制度から職務型人事制度への転換を図る企業が増えてきています。

職務型人事制度の概要

日本型雇用の職能型人事制度の場合には“その人に値段が付く”と言われる一方、職務型人事制度では“椅子に値段が付く”と言われています。
職務型人事制度とは、その人が持つ能力ではなく、その人の仕事を評価する人事制度であり、企業の事業戦略に沿った組織を設計して必要なポストを設け、そのポストが遂行しなければならない業務をスムーズにこなしていける人材を配置し、その人材に市場価値に見合った報酬を支払います。
職務型人事制度が注目されている理由として、少子高齢化に伴う労働人口の減少と定年の延長が挙げられます。
仕事について評価する職務型人事制度では、その職務におけるスペシャリストを求めるため、これまで定年退職によって失われていった労働力を有効活用できるようになります。
加えて、報酬として支払う市場価値の算出には年齢も含まれているので、人件費の抑制にもつながります。
このため、職能型人事制度を取り入れた組織づくりは生産性を維持しつつも、無駄な人件費をカットしやすくなり、企業経営に大きなメリットをもたらすと期待できます。

職務型人事制度のメリットデメリット

職務型人事制度を導入するメリットとしてまず挙げられるのは、評価に透明性を保つことができる点です。
高い職責を果たしている人材が高い収入を得ているため、本人がモチベーションを維持しやすいだけでなく、周囲も自発的に目標を設定しやすくなりますので、組織全体として向上心を養うことにもつながっていくと期待できます。
その他、外部から人材を採用しやすいのも職務型人事制度を導入するメリットです。
どのような業務をこなせる人材が必要なのかが明確であり、報酬も市場価値に沿っているため、採用がスムーズになります。

反面、職務型人事制度の導入によるデメリットとして考えられるのは、組織の人員が固定化されやすい点、縦割りの組織となってしまいがちな点です。
職務型人事制度はスキルと仕事のつながりを重視する人事制度であるため、あるポストの業務を長期にわたって同じ人材が担当しがちとなります。
事業戦略や社内外の環境の変化に応じて、意識的に人材を入れ変えていくなどの工夫を凝らしていくことでカバーしやすくなります。

職務型人事制度導入時の失敗例

職務型人事制度を導入した結果、失敗に終わってしまうケースもあります。
その人が持つ能力を評価する職能型人事制度の場合にはジョブローテーションを行いやすい反面、従事する業務について評価する職務型人事制度の場合には等級や報酬が変化するので異動が難しくなります。
一度上げてしまった等級や報酬について異動を理由に引き下げることも困難であり、組織としての柔軟性の欠如につながってしまいます。
新たな部署やポジションを設けようとした際にも、それらが既存のものに比べてどれほどの価値を持っているのか判断に困るため、等級や報酬の決定に支障をきたしてしまいます。
これらの決定は不公平感を招く原因となりがちなので、慎重に考慮しなくてはなりませんが、これまで職能型人事制度に長く馴染んできた日本においては材料とすべきモデルがまだ不足しているのが実際のところです。
職能型人事制度では業務が属人化していたため、どのような職務であるのかを記しておく職務記述書の作成も簡単ではありません。
これらの理由より、職務型人事制度を上手く運用できないケースが生じています。

職務型人事制度導入のポイント

職務型人事制度を導入するには、職務記述書の作成が必須となります。
職務を限定して採用・配属を行うことになるため、具体的な職務内容だけでなく、その職務を遂行する目的、責任の所在および権限の範囲、従事するために必要な知識・スキル・経験・資格などを明確にしておかなくてはなりません。
一旦、作成したら終わりというものではなく、その職務の内容や取り巻く環境に変化が生じた場合には更新していく必要があります。

それぞれのポジションに適任者を配置していく職務型人事制度においては、ピンポイントでの採用活動が必須となりますが、その実現のためにはスキル面でのマッチングだけを重視するのではなく、自社で働くことの魅力を広くアピールし、自社にフィットできる人材を募るのも大切です。
ジョブローテーションを繰り返しながら組織の中で柔軟にキャリアを積み重ねていく職能型人事制度とは異なり、ひとつのポジションに専念する職務型人事制度ではこれまで以上に就業環境への適応が要求されるためです。

人事のグレーディングを開示するのも大切です。
仮にグレーディングを非開示としたとき、職務と現在の担当者とのマッチングについて客観的な判断ができないままとなるため、社内に不公平感を引き起こしてしまいかねません。
ポジションごとの価値を開示することで社員間での競争を促してモチベーションの向上を促すだけでなく、よりスムーズな中途採用の実現にもつながっていくと期待できます。

まとめ

新型コロナウイルスの感染拡大によってジョブ型人事制度に注目が集まりましたが、職務型人事制度に大きな関心が寄せられるのは今回で3度目です。
日本企業がこれまで馴染んできた職能型人事制度は過去2回、まるでブームのように見直しが叫ばれたものの、今日も根強く残っています。
事業内容、組織の規模や形態によって、職務型人事制度と職能型人事制度のどちらが適しているのか変わってきますが、職務型人事制度を上手く運用できれば、報酬の公平性や効率的な人件費の設定、グローバルな評価基準を得られるなど、多くの経営上のメリットを手に入れることができます。
この機会に自社にフィットする人事制度について、より深く考えてみてはいかがでしょうか。