多くの企業で試用期間が設けられているよう、雇用後のミスマッチが生じた際のセーフティネットとして、求人票を作成する際に試用期間を設定したくなるものですが、その取り扱いは適切に行わなければ、思わぬトラブルに発展する場合もあります。
試用期間は採用する企業側にとって有利なものですが、立場の弱い雇われる側となる労働者保護の観点より、法律でも適切な取り扱いを義務付けられています。
以下では、試用期間について詳しく取り上げていきますので、今後の参考としてください。
試用期間ができた背景
試用期間とは、選考を経て採用決定した新規採用者が実際に自社の業務にフィットできるかどうか最終判断するための期間であり、企業が新規採用者をテストするための期間です。
一定期間を設け、実際に業務に従事させながら、以降に従事してもらう業務への適性、日々の業務をスムーズに担えるだけの健康状態の有無、スキルのマッチングの度合いなどの情報を得て、本採用とするかどうか、本採用とした後の配属先などを決定します。
試用期間中であっても労働契約は存在していますが、それは解除権留保付労働契約であり、適切な取り扱いが要求されるものの、企業側は試用期間終了後に本採用としないとの選択が可能です。
本採用とすれば余計に解雇できなくなるため、採用する企業側にとって試用期間はとても大切な役割を担っています。
応募書類に記された事項、数度の面談だけでは見えづらい新規採用者の適性をすべて把握できるはずがありませんので、採用決定イコール本採用としてしまったのでは、先々の雇用のミスマッチが生じるリスクが大きくなります。
試用期間はこのリスクを軽減できるため、大半の企業が試用期間を設けています。
期限のない正社員雇用を前提として内定を出し、試用期間を仮採用期間、試用期間終了後に本採用へと移行していくケースが一般的ですが、試用期間を設定できる新規採用者の雇用形態は正社員に限られません。
パートやアルバイト、契約社員であっても試用期間を設けることができます。
試用期間の日数
試用期間の日数について労働基準法などの法律における明確な定めはありませんので、企業が独自に長すぎず、短すぎない期間を設定する必要があります。
相場としては3か月から6カ月の間が一般的な試用期間の日数となっており、なかでも最も多く求人票で見かけるのが3か月です。
試用期間が3か月未満の場合には、新規採用者を本採用とするかどうか見極めるための情報収集が不十分となってしまうリスクがあります。
1週間や1カ月では短すぎるのは当然ですが、期限に定めのない正社員雇用であれば月次業務だけでなく、年次業務でも適性を観察すべきケースもあるため、2か月でも短い場合もあります。
しかし、試用期間は企業側が解除権を手にしている期間であるため、試用期間が短ければ短いほど新規採用者にとって有利な労働契約となります。
試用期間の有無は求人票に明記するものなので、試用期間が短いほど、より多くの応募者を期待できます。
反面、6カ月や1年とすれば、十分な適性の判断ができるため、企業側はとても有利ですが、新規採用者にとっては不利な労働契約となってしまいます。
本採用へと移行するのが採用決定より長期間となればなるほど、新規採用者にとって不安が大きなものとなります。
また、求人票に記された試用期間の長さより、求職者が敬遠するようになってしまいかねません。
試用期間が長すぎるとして違法とされた判例もあるので、相場に準じたほうが余計なトラブルを回避できます。
試用期間中の解雇・本採用拒否について
試用期間中であっても労働契約は存在しており、一定期間のみ解除権が留保されている状態なので、試用期間だからといって簡単に解雇できるわけではありません。
やみくもに解雇してしまっては労使間トラブルを引き起こしてしまう原因となりますし、場合によっては労働基準監督署をはじめとする行政機関からの指導対象ともなってしまいかねませんので、試用期間中の解雇または本採用拒否については適切な取り扱いが必要となります。
試用期間中に解雇をするには、相応の理由が要求されます。
試用期間中の解雇については労働法第16条にて“客観的に合理的な理由があり、それが社会通念上相当と認められる場合”に限って許されるものと規定されています。
具体的には、新規採用者の業務遂行能力が求めていたはずのレベルと乖離し過ぎていた場合、他の社員と協調していこうとする姿勢が見られない場合、素行不良が目立つ場合、法律に違反する行為を行った場合などが挙げられます。
これらに該当するようであれば採用する側は眉をひそめるのは言うまでもありませんが、一度や二度、そういった傾向が見られたからといって解雇が認められるわけではありません。
客観的に合理的な理由であると社会が判断できるよう、企業側として面談などでのフォローを繰り返し行うなど雇用継続および本採用へ向けた状況改善のための努力を行う必要があります。
これらの努力をしたにも関わらず、ミスマッチを改善できないときに解雇のためのエビデンスが生じますが、他の従業員に比べて解雇という処分に相当するかどうかも問われます。
上記を満たし、試用期間中に解雇を行うには、労働基準法21条と同20条に定められた規定に沿って手続きを進めていきます。
21条では、試用期間開始から2週間以内での解雇について規定されており、解雇相当理由が存在するなら即時解雇が可能となっています。
この場合には、解雇予告手当、解雇通知手当を支払う必要もありません。
一方、20条では試用期間が14日を超えて以降の解雇について規定されています。
14日を超えた場合には本採用と同じ解雇手続きを踏むものとされており、30日前までに解雇予告を行うか、解雇予告手当を支払わなければなりません。
試用期間に関わる法律
試用期間については労働法において、いくつもの規定が存在しており、それらに沿って適切に試用期間の運営にあたらなくてはなりません。
上でもご紹介したよう、労働基準法21条には試用期間開始後14日以内での解雇について規定されており、同20条では試用期間が14日を超えた場合の解雇手続きについて規定されています。
解雇の取り扱いについては労働契約法16条にも規定があり、こちらでは解雇権の濫用について規定されています。
“解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。”との文言が記載されていますので、試用期間中であっても労働契約自体は存在しているので簡単に解雇はできません。
この規定は試用期間中の解雇だけでなく、試用期間満了時の本採用への移行拒否についても影響を及ぼしますので、両者に準用できるよう前もって本採用への移行基準について明確にしておくといいでしょう。
また、民法627条では期間の定めのない雇用の解約の申入れについて定められており、試用期間中に新規採用者から退職の申し入れを行うことができるものとされています。
試用期間は企業が本採用へ移行するかどうか判断する期間ですが、新規採用者にとっても本当に就業するかどうか判断する機会といえるでしょう。
労働者の売り手市場となっている今日だからこそ、民法627条もマークしておくべき法律といえます。
まとめ
試用期間は労使ともに先々のミスマッチを回避するための貴重な機会ですが、立場の弱い新規採用者側を保護しようとする観点より、労働法を中心に各種の規定が設けられているため、試用期間を設けたとしても簡単に解雇はできません。
むやみに解雇を行えば、解雇権の濫用として解雇が無効とされる場合もあれば、思わぬ労働争議へと発展してしまいかねないので、試用期間を運用するには適切な対応が必須となります。
メリットある試用期間について確かな運営を志すのであれば、転職エージェントに相談してみるといいでしょう。
仕事柄、数多くの企業の採用の現場に立ち会っているため、試用期間を適切に運営している企業の事例の紹介も受けられると期待できます。