経理職としてキャリアを積み重ねていくにあたって、特定分野のスペシャリストとして成長するのか、広範な仕事を担うことのできるゼネラリストを目指すのか、の大きく2つに分けられますが、後者を希望する場合の選択肢として魅力的なのがIT企業の経理職です。
今日、もっとも勢いのある業界のひとつであり、先々も伸びていくことが予想されるIT企業の経理に強くなれば、中長期的なキャリア形成においても優位性を得やすくなります。
IT企業の経理で求められる人とは
経営管理を行うための機能であるため、経理はどの業界においても必須の機能とされていますが、いずれの業界にも特色があり、IT業界も特有の難しさを持つ業界のひとつです。
小売業をはじめとする一般的な企業であれば、“商品を仕入れて販売し、利益がこれだけ残る”とわかりやすい取引について経理処理を行いますが、IT企業の場合には成功報酬の契約形態が多く見られ、発注側と受注側が所定の配分率でお互いの利益を分け合うので、ひとつの取引における単価が定まっておらず、個々の契約内容に沿って計算する必要があります。
IT企業の経理担当者には、こういったIT企業特有の慣習を理解し、間違いなく計算できる能力が求められます。
また、IT企業では業界独自の言葉も多く飛び交っています。
上記のような成功報酬について利益配分する形態の契約をレベニューシェア契約といいますが、社内で円滑なコミュニケーションを交わすためにも、このような新しい言葉を積極的に消化していく必要があります。
IT企業ではITを通じてより効率的な会社運営を図っていることが多いため、経理担当者にもITシステムを使いこなせる能力が求められることも少なくありません。
AIの浸透によって、これまで人間が担当していた仕事が次々と消えていくとも言われていますが、その消えていく仕事のひとつとされているのが記帳をはじめとする経理業務であり、請求書の発行などを含めた経理業務を自動化する会計システムも多々リリースされています。
IT企業の経営者は新しいもの、経営の合理化に敏感であり、優れた会計システムの導入に積極的になる可能性は十分に考えられますので、経理担当者にはその会計システムを使いこなす能力が求められます。
言い換えれば、経理について熟知しているエンジニア的な人材が重宝されますが、社内には優れたエンジニアが他にもいるはずなので、ITエンジニアほどの知識は要求されないものの、ITについての基礎的な知識は欠かせません。
また、経理業務を効率化するために会計システムの導入を提案するなど、経営者的な視点も必要です。
IT企業の多くはベンチャー企業であるため、バックオフィスに十分な数の人材が揃っておらず、管理部門の充実が後回しになっていることも少なくありません。
業務を合理化し、より円滑な会社組織の運営へとつながる提案は企業成長に不可欠です。
風通しの良い企業風土のベンチャー企業だからこそ、改善の提案もしやすいといえます。
IT企業経理の年収は
経理担当者の年収はどのような業務を担当するのか、によって上下しますので、IT企業の経理だからといって他の業界に比べて高いわけではありません。
大手IT企業の経理・財務の求人では年収 450~750万円、IPO準備企業で仕分けや入出金管理から連結決算対応や税務申告も担う求人では年収500万円~850万円、地方都市にあるIT企業で経理、人事労務、総務全体を統括する求人では年収400万円、M&Aで拡大中の成長IT企業において経理財務部長候補を求めている求人では年収600万円~1,000万円といった具合に、ひとつの求人案件でもかなり年収の幅が大きくなっています。
一般社団法人 人材サービス産業協議会『転職賃金相場』によると、経理職の平均年収は3年以上の実務経験があり、チームリーダーや経営分析の担当者レベルで年収400万円~599万円程度、3年以上の実務経験と管理職経験があり、経理の部長・課長レベルで年収600万円~799万円程度となっていますので、IT業界の経理担当者を募る求人案件に記載されている想定年収と比較しても大差はありません。
IT企業の転職する際に評価されるスキルと資格
IT企業では業務効率化を期待できる新しいITツールの導入に積極的であることが多いので、それらのツールに馴染むためのエンジニア的スキルを持っていれば、転職時に高い評価を受けやすくなります。
IT企業ならではの専門用語も多数飛び交う環境の中で従事しなくてはならないので、ITリテラシーも必要となります。
IT関連の資格は多数ありますが、経理担当者としてIT企業でも活躍できる人材であると評価されやすい資格のひとつが国家資格のITパスポートです。
IT系の国家資格には基本情報技術者・応用情報技術者・ネットワークスペシャリストなど12種類ありますが、ITパスポートはそれらの資格の中でもっとも難易度が低い資格です。
ITパスポートを取得していれば、情報処理に関する初歩的な知識を幅広く身につけている人物であるとわかるので、IT企業の採用担当者の目には自社にフィットする人材である可能性が高いと映ります。
Microsoft OfficeアプリケーションのExcelやAccessに搭載されているマクロ・VBAのスキルを認定するVBAエキスパート、マイクロソフト社公認の世界共通資格であるMOS資格もパソコンに通じている人物としての評価を受けやすくなります。
次々と新しい局面を迎えるIT企業においては、スキル面だけでなく、チャレンジ精神や新しいことについての好奇心など、業務に従事していくための姿勢についてもアピールすれば、より高い評価を受けられる可能性が高まります。
志望動機の書き方や例文
志望動機は、これまでのキャリアから得た知識やスキルをもとにどのような貢献ができるのか、なぜその企業に応募したのか、を明確にする必要があります。
以下に、IT業界で働いた経験がある場合、ない場合それぞれについて、志望動機の例文を簡単にご紹介します。
IT業界で働いたことがある経理実務経験者
前職では経理担当者として日次業務から決算・税務申告まで対応しておりましたが、いずれの業務に関連する資料も社外に流出させることのできないものばかりであり、セキュリティの重要性を深く意識しながら業務に従事していました。
貴社を志望したのは、貴社プロダクトの高いセキュリティ技術力が業界において高く評価を受けており、今後も業界内で重要な役割を担っていくだろう点に魅力を覚えたからです。
MOS資格を取得しているため、IT業界の経理担当者として、今後も市場を拡大させていく貴社に貢献したいと考えております。
IT業界で働いたことはないが経理実務経験がある方
御社のプロダクトは社会貢献性が高く、今後も大勢の人々から支持されるものだと思っています。
これから更に事業を拡大させていく御社にて、経理担当者として貢献させていただきたいと思い、今回の応募に至りました。
前職では記帳や出納管理、給与計算や決算業務などに幅広く従事しながら、経理担当として5年間の実務経験を積んでまいりました。
経理担当者としての幅広い対応力をもとに、御社の経理機能がよりスムーズになるよう尽力させていただきます。
ITパスポートを取得しておりますので、ITリテラシーも備えていると自負しております。常に新しい局面へと前進していく御社にて、繰り返すチャレンジをサポートしていきたいと思います。
まとめ
数ある業界の中でも勢いのあるIT企業では、ITツールを導入して経営の効率化に力を入れている場合も少なくありません。
会計データをアップロードすれば自動的に仕分けをしてくれるツールも登場している状況下、これからも優れた会計システムが登場し、経理の業務範囲が大きく変わる可能性も十分に考えられます。
IT企業で働くからには、一定のITリテラシーを身に付け、それら会計システムを使いこなすエンジニア的役割も果たさなくてはなりません。
一般的な経理の現場とは異なる点が多くあるIT企業の経理担当者として活躍するには、常に新しいものを受け入れようとする姿勢も必要となります。