税理士の資格を取得し、会計事務所で税理士として活躍されている方は多数いらっしゃいますが、専門的な知識を活かして事業会社の経理として活躍している方も少なくありません。
この記事では税理士資格を取得している方が事業会社の経理へと転職する際に知っておくべき情報をまとめていきますので、今後のキャリア選択の参考にしてみてください。
税理士として事業会社に転職する際のメリット、デメリットについてもご紹介していきます。
まず会計事務所と企業経理の違い
会計事務所では顧客である企業の決算や税務申告といった業務を請け負います。
経理業務を大別すると、現預金の管理や伝票の作成をはじめとする日次業務、請求書の発行や売掛金の管理および仕入れや経費の支払いなどを行う月次業務といった比較的簡単な業務と、決算や税務申告など専門的な知識を要求される難易度の高い年次業務に分けられます。
多くの場合、企業の従業員が日次業務や月次業務といった難易度の高くない業務を担当し、会計事務所が月次巡回監査として月次業務が正しく行われているかチェックしたり、年に一度の決算や税務申告を担当したりします。
言い換えれば、企業経理の難しい部分を請け負うのが会計事務所の仕事であり、複数の顧客の案件を担当することから、会計事務所で働いていると、一年間に何度も決算・税務申告を担います。
このため、複数の顧客について大局的な情報と経理業務の年間スケジュールを把握することが重要となります。
一方、企業経理として働いているのであれば、一年に担当する決算・税務申告の回数は基本的に自社の一回のみです。
しかし、日次業務や月次業務をこなしていくために、緻密なチェック能力が求められるのに加え、自社の経理業務に役立てられるデータを作成したり、資金調達のために必要な資料を作成したりといった細かい業務を担います。
会計事務所で働いている場合に比べると、ひとつの企業に特化した情報を細部まで把握しながら業務に従事することになります。
税理士が事業会社経理に転職するメリット・デメリット
一般企業の経理担当者として従事する税理士を、企業内税理士と呼ぶこともあります。
企業内税理士としてのキャリアを選ぶ理由は大きく3つあります。
まずは収入の安定です。
会計事務所に税理士として勤務していても、その事務所が企業との結び付きがそれほど強くない場合、年収が300万円に届かないケースも少なくありません。
しかし、大企業の経理担当者として働く場合には、管理者として年収500万円以上からスタートできる場合もあります。
専門知識を豊富に持っている税理士資格取得者は高い評価を受けやすいので、大企業に雇用されるためのハードルは自ずと低くなりがちです。
加えて、大企業であればワークライフバランスが取りやすいというメリットもあります。
2つ目の理由は、財務や経営戦略立案に携わることができる点です。
経営資源であるカネのプロフェッショナルとして経営に携われることはとても大きなやりがいを感じられるものであり、会計事務所での勤務ではなかなか体験できない貴重な経験となるため、より一層のキャリアアップにもつながります。
3つ目の理由は、専門知識を持つリーダーとして、組織のマネジメントを担うことができる点です。
企業規模が大きくなるほど、経理チームの規模も大きくなるため、独立開業時や会計事務所勤務時には味わえない経験をすることができます。
反面、2点のデメリットが挙げられます。
まずは年収に限界がある点です。企業内税理士はその企業の従業員に他ならず、基本的には所定の給与テーブルに沿って給与が決定されますので、自ずと給与の上限が定まってしまいます。
税理士資格について手当が支給される場合もありますが、あくまで手当である以上、年収を大きく上昇させるものではありません。
他方は、仕事の自由度が少ない点です。
企業内の経理業務のうち、自身が担当する範囲内で従事するのが基本となるため、会計事務所で勤務しているときのように、コンサルタント業務に従事するような機会にも恵まれません。
大企業の場合には、業務分担が細分化されているため、自身の担当する業務の範囲について明確な線引きがされており、その範囲を超えて業務を担うのはより難しくなります。
税理士資格を保有していることはプラス評価されるのか?
企業が経理担当者を採用する際、もっとも重視しているポイントが実務経験です。
これは税理士についても同様であり、自社においてどのようなパフォーマンスを期待できるのかを見極めつつ採否を判断します。
会計事務所に勤務していれば、顧客企業をいくつも受け持ち、年に一度の決算や税務申告を担う場合が多々となりますが、これらの業務に関する知識やスキルは多くの事業会社にとって年に一度活かせるだけに過ぎず、その企業が経理担当者に求める人材像とミスマッチが生じてしまいます。
このため、会計事務所で重ねてきたキャリアより自己アピールするには、記帳代行や給与計算など事業会社の経理担当者としての汎用的なスキルについてPRする必要があります。
実務経験が重視される一方、求人によっては税理士資格取得者が応募要件となっている場合もあります。
このケースは、税務書類の作成、税務申告手続き、関連会社との連結処理、海外子会社の税務対応、M&Aなど、税務処理を多数担うことのできる人材を募集する際に見られ、税理士としての専門知識を求められるため、税理士資格取得者は優位性を持って選考に臨むことができます。
税理士資格の保有がプラス評価されるかどうかは、その企業でどのような業務に従事するかがポイントとなります。
税務部門と経理部門が分かれている大企業が税務部門の求人を行う場合であれば、税理士資格はプラス評価を受けます。
しかし、経理部門の人材を募集しているのであれば、税理士資格よりも実務経験を重視されます。
税務と経理が分かれていない中小企業の場合には、広範囲の業務を担当できる人材を好むため、やはり実務経験を重視しがちです。
経理に転職する際に確認しておくこと
税理士としての専門的な知識やスキルを活かすには、その企業に入社してからどのような業務を担当するのか事前に把握しておかなくてはなりません。
税務のスペシャリストとして事業会社で活躍したいと思っていたのに、いざ入社してみると経理以外の多様な業務も担当しなくてはならないといった状況に置かれてしまえば、その後のキャリア形成に支障をきたしてしまいます。
また、税理士資格を維持するための費用を、会社で負担してくれるのかどうかもチェックすべきポイントです。
企業内税理士として働くために税理士登録は必須ではありませんが、税務申告書に税理士として署名するには登録が必須です。
税理士登録には登録料がかかりますが、税理士資格を維持するためにも毎年、年会費10~15万円(地域によって差異あり)がかかります。
これらの費用を会社が負担してくれるのであれば、かなりの負担減と感じられます。
志望動機の書き方と例
志望動機を作成するには、これまでのキャリアよりどのような貢献をできるのか、入社後にどういった業務を担当したいのか、なぜその企業を選んだのか、の3点を明確にします。
<例文>
会計事務所では税理士として、年間25社ほどの決算および税務申告のサポートを担当し、資金繰りや節税などのご相談に対応してきました。
業務を通じ、「ひとつの会社の経営にもっと深く関わりたい」との想いが募ったのが経理職を志望するようになったきっかけです。
会計事務所での勤務では多くの会社に貢献できる一方、1社あたりへの貢献性はどうしても希薄になってしまいます。
このたび、御社で経理業務を通じて経営に貢献できる人材を募集されているのを拝見し、私の知識やスキルをフル活用できる場であると強く思ったのが応募の理由です。
常に組織全体として前進を目指す御社の姿勢にも共感しており、是非経理担当として貢献させていただきたく思います。
まとめ
事業会社の経理担当者として、企業内税理士として働くのは、ひとつの会社の経営に深く携わることができる魅力があります。
しかし、入社してどのような仕事を担うのか事前に明確にしておかなければ、転職の難易度が上がってしまうほか、入社してから“こんなはずではなかった…”とのミスマッチを覚えてしまいかねません。
大手企業、中小企業ではそれぞれ経理担当者が担当する仕事内容も変わってきますので、入社前の情報収集がとても重要なものとなります。