法律のプロフェッショナルである弁護士には、その専門性・希少性より様々な業界からニーズが寄せられており、企業内弁護士(インハウスローヤー)として働く人も増えるなど働き方が多様化しています。
そのひとつとして、就職しやすい、専門性を身に付けられる、という理由から、任期付き公務員として働く弁護士もいます。
この記事では任期付き公務員についてご紹介するとともに、任期付き公務員として働いた弁護士のキャリアプランについても取り上げていきます。
任期付き公務員とは
ビジネスを取り巻く環境の変化が目まぐるしいのと同様、行政も高度化・多様化・国際化しているため、それらの変化にフィットできる人材の育成が求められています。
しかし、これまでのように新卒採用してから内部で育成するだけでは対応しきれないため、有能な民間人材を採用して対応しようという方針のもと、「一般職の任期付職員の採用及び給与の特例に関する法律」(任期付職員法)が制定されました。
これに伴い、任期付き公務員が広く募集されるようになりました。
任期付き公務員を採用できるのは、“高度の専門的な知識経験又は優れた識見を有する者をその者が有する当該高度の専門的な知識経験又は優れた識見を一定の期間活用して遂行することが特に必要とされる業務に従事させる場合”と定められています。
ここで言う、高度の専門的な知識経験には弁護士の知識経験が合致するため、弁護士を任期付き公務員として採用しようとする自治体も少なくありません。
任期付き公務員の求人例
弁護士向けの任期付き公務員の求人例をいくつかご紹介します。
『証券取引等監視委員会』
任期:採用時から原則として2年程度
業務内容
・リスク管理・内部管理態勢等の適切性・実効性
・法令違反行為の有無
・リスクの所在が不明確な商品の取り扱いの有無及びその場合の勧誘実態等
・マネー・ロンダリング対策、テロ資金供与対策への取組状況
・サイバーセキュリティ対策の十分性
・「顧客本位の業務運営」を実現するための施策の実施状況
『国土交通省』
任期:採用予定日より3年間
業務内容
・情報公開開示請求に係る不開示判断等の適法性の精査
・情報公開に係る審査請求事案の対応(情報公開審査会への諮問に係る理由説明書の作成等)
・情報公開に係る訴訟事案の対応、地方機関等への指導・助言
『地方自治体』
任期:採用予定日より2年間
業務内容
・法律的課題に係る職員からの相談への助言、指導
・職員の法務能力向上に向けた研修の実施
・指定代理人として訴訟事件への対応
・審査請求への対応 など
『地方自治体』
任期:採用予定日より2年間
業務内容
・市の施策における法的妥当性や法令適合性の検証
・職員からの法律相談に対する助言・指導(困難な事案は顧問弁護士が対応)
・条例・規則の制定・改正の法律解釈等
・業者との契約書や仕様書、民間連携事業等における協定内容の法的見地からの確認
・債権の管理・回収に関する相談
・行政不服審査業務
・その他総務部総務課に係る所掌事務 など
いずれの求人においても、給与は任期付職員法または一般職の職員の給与に関する法律に基づき支給とされています。
自治体によっても異なりますが、任期付き公務員として働く弁護士の年収目安は800万円~900万円となります。
任期付き公務員を経験した弁護士の転職先例
任期付き公務員の求人にはその名の通り、定められた任期が明記されています。
任期は2~3年と明記されている場合が多いものの、採用した日から5年を超えない範囲内で更新されるケースも見られます。
しかし、法律で任期付き公務員の任期は最長で5年以内と決まっているため、任期付き公務員を経験した弁護士は次のキャリア選択を迫られますが、まず候補となるのがもともと在籍していた法律事務所への復帰です。
弁護士業界では任期付き公務員は出向先の選択肢のひとつとして知られており、任期付き公務員での経験を修業期間として捉えている事務所も少なくありません。
こういった背景もあり、法律事務所に所属したまま任期付き公務員として働いている弁護士もいます。
もちろん他の法律事務所へ転職するキャリアも選択肢となります。任期付き公務員として働くことで専門性を養うことができるため、それを活かせる新しい事務所へと転職し、新たなキャリアを積み重ねていきます。
法律事務所だけでなく、企業内弁護士(インハウスローヤー)として働いたり、独立開業したり、といった選択肢も候補となってきます。
任期付き公務員は転職しやすいのか?
任期付き公務員は弁護士業界でも出向先のひとつであり、修行期間のようなものとして知られているよう、そのキャリアを魅力的なものとして捉えている法律事務所は少なくありません。
その理由は任期付き公務員だからこそ得られる専門性にあります。
自治体や省庁などの公的機関で担当する業務は、法律事務所のなかで最も数の多い一般民事・刑事法律事務所に勤務しているだけでは、なかなか経験できない仕事ばかりです。
民間企業と公的機関の性質は異なる以上、企業法務系法律事務所やブティック型法律事務所においても同様です。
どのような業界でも希少な専門性を持つ人材は高い評価を受けやすい傾向がありますが、弁護士業界は尚更です。
難関資格である弁護士資格を取得している以上、弁護士はそれぞれ専門性の高い人材であるといえますが、そのような弁護士が勤務する法律事務所では専門性とともに多様性も求めています。
任期付き公務員として得られた専門性は法律事務所の求める多様性にも合致するスキルであるため、転職時には有利に働くケースが多々見られます。
四大法律事務所(西村あさひ法律事務所、アンダーソン・毛利・友常法律事務所、長島・大野・常松法律事務所、森・濱田松本法律事務所)でも専門性・多様性の両方を併せ持つ人材を求めていますが、ある程度の規模の事務所となれば、既にその分野に強い弁護士が在籍していることが多いので、転職するタイミングによって求人のニーズに合致するかどうかは流動的となります。
このため、最近ではカジュアル面談の機会を設けるなどして、本選考の前にお互いの得意分野やニーズなどをすり合わせることも増えてきています。
カジュアル面談とは、その面談が採否の判断に影響を及ぼすものではなく、あくまでお互いをよく知るために企業の人事と応募者が1対1で対話する機会のことをいいます。
いわば選考の前段階として行うステップであり、後々のミスマッチを避けるための貴重な機会に他なりません。
その他では、転職エージェントを活用することで、求人企業と応募者の双方のニーズを事前に擦り合わせる方法もあります。
まとめ
任期付き公務員として働いた弁護士は希少なキャリアおよびスキルを持つ人材として高い評価を受けやすい反面、専門性が高いのでニーズがどうしても限定的となってしまうことも少なくありません。
カジュアル面談を活かして求人企業とのスキルのマッチングを計るにも、それほど多くの企業と同様の機会を設けられるわけでもありませんので、本当に自分にピッタリの転職先を見つけるのはそう簡単ではありません。
そのようなときに便利なのが転職エージェントの活用です。
転職エージェントはクライアント企業の内部事情にも精通しているため、どのような業務に従事するのか、どういったスキルを活かせるのか、など入社後の具体性ある情報を持っています。
特に、士業・管理部門に特化した転職エージェントであれば、弁護士の転職支援実績も豊富に持っているため、きっと参考になる情報を得ることができます。
専門のキャリアアドバイザーが実例をもとに、ひとりひとりの希望に沿うことのできるようなアドバイスも行っているので、是非この機会に利用登録してみてください。
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